王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
*
楽団の演奏が聞こえる。従者のリアンに半ば無理やり着替えさせられ、ギルバートは不満げな顔をあらわにしていた。
「ギルバート様。これは国王からの命令です」
「俺はもう、舞踏会など開かなくてもいいと父上に言ったはずだ」
「ギルバート様が妃を決めれば開かなくて済みますよ」
「だから……」
こんなところで着飾っているような令嬢ではないのだ、と思う。
袖口の飾りボタンをいじりながら、いっそエマを着飾って舞踏会に連れてこようかとも考える。
しかし、彼女には騎士団員であると嘘をついているのだ。ばれたらどうなるか。考えるだけでも恐ろしい。
警戒心なく気軽に話しかけてくれるのは、ギルがせいぜい低級貴族だと思っているからだ。
王太子だなどとばれたら、彼女はきっと距離を置いてしまうだろう。自分に向けられるあの笑顔が消えると思ったら、打ち明ける勇気など出てこなかった。
(いっそ、王位など弟に譲って、エマを連れて逃げるのはどうだ)
王子は恋に生きたのだ、とあきらめてはくれないだろうか。
そんな考えも一瞬よぎったが、それはただの無責任だと自分でも思ってしまう。
帝王教育を受けてきたのはギルバートだけだ。全てにおいて特別扱いなのも、ギルバートが王位を継ぐという前提があるからだ。
それをここで逃げ出すのは、おいしいところだけ吸って逃げるただの卑怯者ではないか。