王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「ヴァ、ヴァレリア殿。なっ泣かないでください。これはそんなにたいそうな怪我では。というか、なぜ怪我のことを」
「俺が教えたんだ。ヴァレリア殿はセオドアが心配で、慌ててここに来たのさ」
ギルが笑い、真っ赤になったセオドアをからかうように続けた。
「どうだ。この国一の美人に心配された気持ちは」
「なっ……、からかわないでいただきたい。……ヴァレリア殿、どうか涙を拭いて下さい。あなたの悲しそうな顔は見ていたくありません」
「す、すみません。すぐに泣き止みますから。どうか。……どうか、嫌わないでくださいませ」
「嫌うなんてそんな……」
「私。……その。あの、……」
「ヴァレリア殿。……俺は、その」
どう見てもお互い思い合っているのに、もじもじとしながら遅々として進まないふたりの会話は、はたから見ているほうはじれったい。
エマは思いついて、ふたり分のお茶を入れた。そして、セオドアとヴァレリアの目の前で、惚れ薬の小瓶を掲げる。
「エマ、これは?」
「おまじないをしますね。……これは恋のお薬です。ほんの少しだけ、お茶に混ぜます」
ぽとりと落ちた一滴が、水面を揺らす。エマはそれをスプーンで回して見せる。
「飲んだら、目の前にいる人を好きになってしまうとしたら、どうしますか?」
セオドアもヴァレリアもぎょっとしたような顔をした後、意を決したようにカップに手を伸ばす。
「……飲みますわ。私の本当に大好きな人は、目の前にいるんですもの……!」
「俺だって……え?」
セオドアは驚き、思わず彼女の手を握る。
強制的に方向を変えられたヴァレリアの指先がカップに当たり、テーブルの上で傾いてこぼれた。