王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「俺は君を妃に迎えたい。……頼む、エマ。ここを開けて、イエスと言ってくれ。そうしたら、どんなに反対されても俺は父上を説得する。俺が好きなのは、シャーリーン殿じゃない。もちろんヴァレリア殿でもない。どんなに美しく気品のある令嬢より、俺の隣で屈託なく笑ってくれる君のほうがいい。……頼むよ、エマ」


夢にまでみた愛の告白に、エマは涙が止まらない。
だけど、ただ庶民というだけではない、エマは魔女なのだ。魔女が王太子妃になるなんて、許されるはずがない。


「無理よ。……超えられる身分ではありません。お帰り下さい」

「エマ!」

「私が恋をしたのは、騎士様の“ギル”です。……王太子様じゃない。……あなたが王太子様だなんて、知りたくなかった」


扉をたたく音が止まった。

それでもエマは動く気に慣れず、扉に背を預けたまま座り込んでいた。
バームは心配そうにエマの周りを飛び回る。


「静かになったな。多分、あいつ、帰っていったぜ。……いいのか、エマ」

「……だってどうしようもないでしょう?」


自嘲気味に言ったエマに、バームも返す言葉を持たなかった。
バームにできたのは、そのまま倒れてしまいそうなエマを何とか急き立ててベッドに連れていくことくらいだった。

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