35階から落ちてきた恋
「嘘かもしれないし、嘘じゃないかもしれないよ」

進藤さんはうーんと両手を広げて大きく伸びをした。

嘘に決まってるだろうに何を言ってるんだろう。根っからの遊び人なのかもしれない。


「そうだ、タカト、体調はどうなんだ?熱は?」

木田川さんがベッドに近付いて進藤さんの額に触れようとするのを進藤さんは嫌がる仕草をした。

「おい、果菜ならいいけど、男が触るなよ」くくっと笑う。

ハッと私も自分の仕事を思い出した。
えーっと、体温計は・・・っと。

進藤さんのベッドサイドに行き体温計を手渡す。

「果菜が測ってくれないの?」

「もう自分で動けるようなのでご自分でお願いします」

「冷たいね」

「そんなことないですよ」
にっこりと業務用スマイルで返して聴診器を取り出した。

「胸の音を聞かせて下さい」

進藤さんのTシャツを捲ろうとすると「あれ」と声がした。

「これ着替えさせてくれたの果菜?」

「そうですよ」

「よく見たらジーンズも脱いでるし、下も・・・」

ええーっと・・・・「ナースなんで・・・」
気まずい。非常に気まずい。
そうです。昨夜汗でべたべたになった身体を拭いて全部着替えさせたのは私です。

ニヤニヤする進藤さんのTシャツを捲って聴診器を当てた。
口を開けてもらい喉の奥を確認する。

進藤さんは黙って従ってくれていたけれど、少し気まずい。

「どうですか?」

木田川さんが遠慮がちに聞いてきた。

「昨日より喉の腫れは治まってますけど、まだ微熱もあるし、油断はできません。新藤さん、自覚症状は何かあります?どこか痛みは?」

「ああ、まだ喉が痛いな。関節の痛みはかなりなくなった」

「少し食事をとった方がいいんですけど、食べられますか?」

「少しなら」

「じゃあ、食べて時間までもう少し寝て下さい。
・・・そういうことです」

初めは進藤さんに後は木田川さんに向けて言った。
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