ショコラの誘惑

 それはショコラトリーのダイレクトメール。

 私が唯一贔屓にしているショコラトリーは、固定のお店を持っていない。日本中を気ままに車で移動しながら、ショコラ職人が丹精込めて作ったものを販売している。金持ちの道楽的なそのお店だが、中の職人の腕は確かだ。

 彼らの作りだした生ショコラは、全国にファンが多くいるほど絶品。普段あまり甘いものを食べない私も、その生ショコラファンの一人だった。

 その移動販売店が、一年ぶりにこの街に来ている。バレンタインも近い事もあり、大々的にキャンペーンをやっているようだった。

 前回来た時は、出張していて買う事はできなかった。その前の時は、ダイレクトメールが来ている事に気が付かず、気付いた時には既にショコラトリーが去った後だった。だから、今回は絶対に買いたいと思っていたのだ。

 バレンタイン用に一つと、自分用に一つ。それを考えただけでウキウキと心が弾む。

 ダイレクトメールを読んで気が付いたのは昨夜。そしてショコラトリーの販売期間は、バレンタイン当日の明日まで。私が欲しい生ショコラは特に人気があり、朝から行列を並ばなければ絶対に買えない。一日の販売数も限定で、瞬く間に売り切れてしまう事は想像に容易い。

 だから、どんなに早く仕事を上がっても間に合わないのだ。
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