花と蝶
淑儀は従二品の高位である。劉尚宮の元にはたくさんの贈り物が送られた。
金糸の刺繍が入った礼装にカチェが送られた。
劉尚宮はようやく正式な後宮になれたのだが、彼女には悲劇でしかなかった。冊封を受けたその日に誠仁君が韓妃の養子となったのである。
劉淑儀は飲まず食わずで中宮殿の前で懇願した。誠仁君を返してくれ、と。
それが三日間も続いた。四日目の朝だった。劉淑儀は中宮殿に生えている橘で首を吊った。
彼女の死は韓妃に対する最大の報復だった。橘は切られて劉淑儀は昭儀に追封されてた。
「いくら死人を慰めても無駄よ…誠仁大君を奪いにやってくるわ…」
李尚宮が宥めるように言った。
「媽媽、大丈夫です。死人には何もできません」
「巫女を呼んで!お祓いをしてちょうだい!」
韓妃の異常なまでに霊を恐れる姿を正嬪は眺めていた。自分自身を見ているようだった。
夜、満月の明かりがこぼれ落ちてきた。正嬪は外に出て満月に手を合わせた。
「これは旦那さまと哀れな昭儀に捧げます…昭儀は死んで抵抗しました。こなたはそこまでの勇気はありません…」
静寂に正嬪の声は消えていった。
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