花と蝶
目覚めると汗で寝巻きが濡れていた。扉の外には人影はなく、月明かりもなかった。闇の中で正嬪は呟いた。
「旦那さま、私をお捜しなのですか?」
光城君は辺境に行ったきり帰ってこなかった。朽ち果てた屋敷に留まり、彼の帰りを待っていたが欣宗のお召があった。
まるで玄宗が楊貴妃を召したように、静かに奪われてしまったのである。
布団から起き上がり、扉を開けて外に出た。月は傾き、夜が終わりを告げようとしている。
「木蘭を2人で観ようと仰っていましたね…でも、亭から眺めた木蘭は、もう咲きません」
ゆっくりと瞳を閉じる。政略結婚ではあったが、正嬪は彼を少なからず愛していたのである。
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