花と蝶
朝日を浴びた正嬪は更に美しく見えた。指をさしていた内人たちはその美しさに唖然とした。
真っ直ぐと前を見据えて歩く姿は貴婦人そのもので、長年、御前に仕える嬪御のようであった。
中宮殿につくと朴尚宮が取次をして中に案内された。
正殿に案内された正嬪を迎えたのは不貞腐れた顔の中殿韓妃だった。
「お座り」
「感謝します」
「お前はどのようにして主上殿下に取り入ったの?」
「私めは…」
「唐の武則天のように惑わしたの?」
「中殿媽媽!」
すると中殿韓妃は盆にあった茶碗を正嬪に投げつけた。桜色のチョゴリに茶が染み込む。
「この女狐!見ているだけで吐き気がする。出ておいき!」
「申し訳ございません…」
正嬪は涙を堪えて立ち上がると一礼をして正殿を後にした。外に控える内人たちは濡れたチョゴリをみて微かに笑った。正嬪が出ていくと笑い声が聞こえた。
「正嬪媽媽、早く着替えに帰りましょう」
朴尚宮が優しく言った。
「そうね。中殿媽媽があれだけお怒りなら他の嬪御はもっとお怒りのはずだわ」
「考えないことです」
朴尚宮は正嬪の手を引いて列榮堂に戻っていった。
< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop