花と蝶
列榮堂の門を潜ると内人と尚宮らに囲まれた女人がいた。その女人は正嬪を見つけると柔和な笑をみせた。
「あなたが正嬪尹氏ね。こなたは淑嬪洪氏よ。ご挨拶に伺ったのよ…あら、涙が見えるわ」
淑嬪に言われて初めて正嬪は自分が泣いていることに気がついた。
「きっと中殿媽媽に酷いことを言われたのね」
「いえ、目に埃が入ったのでしょう…」
「深くは聞かないわ。あら、チョゴリが汚れているわ。早く着替えた方が良いわね。出直すわ」
「お見送りします」
淑嬪は終始、柔らかい笑顔と口調を変えなかった。わざとらしさはなかったから、淑嬪本来が優しいのだとわかる。
「朴尚宮、着替えを」
「はい」
正嬪は列榮堂に入った。寝所で朴尚宮が用意した水色のチョゴリに着替えると、ため息をして座り込んだ。
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