花と蝶
「淑嬪媽媽はお優しい方ね」
「さようですね。主上殿下も目をかけております」
「主上殿下には何人の嬪御がいらっしゃるの?」
「恐れながら、とりわけお気に入りの僖嬪媽媽と承恩尚宮がおります」
「承恩尚宮?」
「はい。誠仁君媽媽のご生母です」
「王子君を産んだ身で承恩尚宮とは…」
「はい。劉尚宮と言って身分が低いうえ、中殿媽媽から嫌われております」
「不運な方ね…」
正嬪は朴尚宮の話を聞いて劉尚宮に興味を抱いた。しかし、尚宮では分からないこともある。
嬪御のことは嬪御に聞くべきだと正嬪は立ち上がり淑嬪の殿閣に向かった。
いつものように朴尚宮に取り次いでもらい中に入ると淑嬪が出迎えてくれた。
「正嬪、嬉しいわ。来てくださったのね」
「淑嬪媽媽こそ出迎えてくださって、感謝します」
「同じ正一品よ。媽媽だなんて呼ばないで」
「ですが…」
「こなたは気にしないわ」
正嬪は淑嬪に促されて座布団の上に腰を下ろした。
「本当に美しいわ。ため息が出てしまうほどよ…まるで真珠のようね」
「お恥ずかしゅうございます…美しいといえば、僖嬪媽媽もお美しいのでしょうね」
「僖嬪は特別ね。歳をとるにつれて美しくなっているわ…酒のようにね。ただ、美しさを述べるとしたら劉尚宮は野すみれのように可憐ね」
「承恩尚宮劉氏ですか?」
笑みを浮かべながら淑嬪は頷いた。
「でもね、中殿媽媽に邪険に扱われて封号すらされないのよ…誠仁君はどの王子よりも卑しいとされているわ」
淑嬪はおもむろに口を開いた。劉尚宮は元々、至密内人で主上殿下の寝所に仕えていた。それを主上殿下が気まぐれで承恩尚宮としたのである。
丁度、その日は中殿韓妃の誕生日で屈辱に感じた中殿は劉尚宮を目の敵にした。誠仁君が生まれても中殿は彼女を後宮にはしなかった。主上殿下は気まぐれで抱いた彼女など忘れていたのである。
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