黙ってギュッと抱きしめて
どうせ干からびてるもん
(…忘れた頃にやってくる…。)

 翼のスマートフォンにグループラインの通知。大学の同期の女子全員が加入するグループライン。この中で定期的に会う人なんて誰もいない。
そして、忘れた頃にやってくる通知は決まって…

(…はいはい。結婚式ですね。)

 結婚式にそんなに呼びたいかな、と翼はつくづく思う。申し訳ないけれど、もう二度と大学の同期の結婚式には行かないと心に誓っている。親への手紙という名の御涙頂戴タイムも何の意味もないとしか思えなかったし、よくも知らない新郎とのキスシーンを見せられたって何も嬉しくなかった。キスシーンなんて見目麗しい女優と俳優がやるから見たいのであって一般人同士で顔面偏差値が普通なら金を払って見たいものじゃない。
 個人的に会うこともしないくせに、このラインだけには結婚します、おめでとう、という言葉が飛び交う。そんな軽いおめでとうなんて欲しいのかな、本当に。いや、欲しいから結婚しますなんてわざわざ言って来てもらおうとしてるんだろうな。
 翼はそう結論づけて、グループラインを退会した。

 笠原翼(かさはらつばさ)、26歳。彼氏とは2ヶ月前に別れた。今思えば不甲斐ない彼氏だった。だから別れたことは後悔していないけれど、年齢的には少しずつ焦り始めている。
…とはいえ、本当に結婚したいのかと言われたらクエスチョンなのだが。

「あーやってられん。飲も。」

冷蔵庫から出したのは、梅酒。あいにくビールは苦手だ。今日は梅酒のロックでいきたい気分だ。お風呂上がりだし、まぁゆっくり飲むことにしよう。

 ちなみに、名前は気に入っている。男勝りなこの性格にピッタリだと思っている。
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