黙ってギュッと抱きしめて
「はい、寝る。」
「…いつ帰るの?」
「そんなに帰ってほしいのかよ。」
「…だって、申し訳なくて。」
「別に謝ってほしくて来たわけじゃねーから。翼は俺のことは気にしないで、とっとと治すことだけ考えろ。」
「だ…だって…。」

(来てもらっていい、理由がない。優しくしてもらう理由が、本当はないんだもん。)

 心配してもらう理由なら、友達だからで充分だと思う。だが、病院まで付き添ってもらい、挙句看病までしてもらう理由がないことがどうしても引っかかって素直に甘えられない。そういうところが可愛くないと知っている。

「病人はただ甘えていればいいんだって。そういうのが『可愛い』なんじゃねーの?」
「…どうせ可愛くないもん。」
「お前が可愛くないとは言ってない。いいから寝ろ。」
「わぁ!」

 目の上に乗った、大きな遥の手。視界が奪われて目の前は真っ暗だ。

「お前が寝るまで乗っけておくからな。早く諦めて寝ろ。」
「…わかったよ。」

 翼はゆっくりと目を閉じた。


* * *

 寝息が聞こえてきてそっと目から手を離すと、少し苦しそうに眠る翼の表情が見えた。

「…だってだってって、駄々っ子かよ。」

 頬をツンと指で弾けば、変な声を少し上げる。そんな幼馴染は甘え下手で、恋愛に敗れてばかりいる。

「どうせ可愛くないもん、…ときたか。」

 何度恋をしても、愛される経験をしても自信をもてないでいる翼。それを多分、自分は一番近くで何度も見てきた。見るたびによぎる、一つの想い。ただ、それを翼に言えないでいるのは2つの理由があるからだった。1つは、ただの自分のワガママ。そしてもう一つは。

「…翼、お前…。幼馴染だからこうやって関係が続いてきたって思ってんだろ?」

 幼馴染。壊したくて壊したくない関係性。枷でもあり、強いつながりでもある。

「…どうせ可愛いんだよ。何してたって。」

 仕草がとか、顔がではなく。翼なら、何をしていたって。
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