黙ってギュッと抱きしめて
「態度がでけぇからあんまり自覚なかったけど、こうすると案外小さいな、翼。」
「並んで歩いてもあんまり感じなかったけど、意外と力強いな、遥。」
「あ、ごめん。緩める?」
「んーん…いい。このままで。」

 妙な心地よさだ。恥ずかしさも、少しずつ減ってきたように思う。ずっと知っている香り、距離感、親しみ、優しさ、全てが混ざったらこんな感じなのだということを初めて知った。嫌じゃない。思っていたよりもずっと。
 むしろこのままそっと意識を手放してしまえるくらいには気持ちいい。

「なぁ、お前寝そうだろ。」
「え?」

 翼は顔を上げた。

「徐々に重みが増してきた。」
「重みってひどいんですけど!」
「重いじゃなくて重み!」
「どっちでも同じだわ!デブで悪かったわねデブで!」
「うーわ、出たよ。被害妄想。過剰反応。大体デブじゃないじゃん。丁度いいでしょ。」
「せっかく気持ちよかったのにー!」
「干からびた気持ちも少しは収まった?」
「どうせ干からびてるもん!」

 仕事だけしていたって、女の幸せはどうしたとかそんなことをきっと陰では思われてる。そんなことを思ってしまうくらいに気持ちが可愛くなくなってしまった。何もかも面倒で仕方がない。仕事も恋愛も、女磨きも、全部を全部100%で頑張るなんて、どうあがいたってできない。

「干からびてないじゃん、翼は全然。」
「え?」

 優しく頭の上に乗った遥の手が、そのまま翼を撫でた。

「まぁ若干キッチン汚かったけど、でもちゃんと自分で考えて頑張ってんじゃん。そういうやつを干からびてるって言わないって。」

 またしても急激に恥ずかしさが顔を直撃してきて、翼は遥の胸に顔を埋めた。
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