黙ってギュッと抱きしめて
 だるすぎる身体を引きずって、なんとか病院にたどり着く。

「…寒い…。」
「わかったって。熱高すぎるから先に診てもらえるって。」

 遥の言った通り、待っている人も相当数いたにも関わらず、翼は早々に呼ばれ、インフルエンザの疑いが強いため、鼻に謎の管を入れられ(死ぬほど痛くて変な声が出たし涙も鼻水も出た)、検査をされた。

「…やっぱインフル?」
「…違ったって。なんなんだよ、痛いだけ損した気分。」
「インフルなら5日くらい出勤できないけど。」
「…それ無理だ。」
「社畜女は可哀想だな。」
「社畜なのはお互い様じゃん。」
「とりあえず解熱剤出されんだろ。二日間は大人しくしてろ。」

 薬を貰うだけでもヘロヘロだ。本来ならば一人でくるべきはずのところだったが、遥がいて助かった。

「休みの日なのに、ごめんね。」
「…別に。ドタキャンなんて珍しいから変だなって。理由も言わなかったし。」
「…ちょっと言える余裕もないくらい…寒かった。」
「わかったって。薬飲むために何か食うぞ。何なら食えんの?」
「え…?あ、あったかいもの?」
「ありえないくらいバカな答え。」
「…う…だってそれくらいしか…。」

 寒くて寒くて辛すぎる。それとなく遥が身体を支えてくれているから歩けているようなものだ。正直とっととベッドにもぐりこみたい。

「家までもうちょいだから頑張れ。」
「…うん。」

 たとえば、前の彼氏だったら私が具合が悪かったらここまでしてくれたのだろうか、なんてそんなことを死にそうな脳で考える。ギュッと抱きしめられてから、少し思考が変だ。遥は彼氏じゃないのに。遥と自分の関係は彼氏彼女じゃないからこそ成立してきたものなのに。そこに余計な恋愛を持ち込もうとしている自分が少しだけ顔を出す。
< 9 / 29 >

この作品をシェア

pagetop