あ、あ、あ愛してる「君に伝えたい思いをこめて」
慣れない国の慣れない景色や風習、しきたりに終始戸惑いおどおどしたエマの視線が、いちいち気にかかる。

躊躇いがちにポツリとこぼす言葉はぎこちなく、声も空気が漏れたように小さい。

俺が声をかけるたび、瞳が揺れた。

「エマ、何をそんなに……?」

俺は言いかけて言葉を飲み込んだ。

ーー何をそんなに怯えている? それほどまでにデュオでのキャリアは重要だったのか? それほどまでにデュオを離れたダメージは深刻なのか?

昨日、空港で会って以来エマのまともな笑顔を見ていない。

共に演奏していた頃のはつらつとしたエマの面影がまるでない。

俺が抜けた後、いったい何があったのか? どんな風に過ごしていたのか?

チャートを転がるように下降したデュオの状況をすぐにでも訊ねたかった。

無理矢理にエマの口から訊くのではなく、エマが話してくれるまで待っていようと決めているのに……。
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