月が綺麗ですね
「あまり食欲がなくて。私はサラダとか軽い物でいいので徹さんが食べたいものでいいですよ」

「じゃあ蕎麦とかあっさりした物のほうがいいか?」

「はい」


車は夜の街を照らしながら走る。


仕事が終わると、私たちはオフィスから少し離れた場所で待ち合わせて一緒に食事をして、彼が私のマンションまで送ってくれる。それが毎日のパターンになっていた。


「疲れているのか?」

ハンドルを握りながら問いかけてくる声が心配そうだ。


「少しだけ」


彼に心配させないように控えめに私は答える。本当はこのまま家に帰ってすぐに眠りたい。けれど、彼はお腹空いているはず。


「声に元気がないし顔色が悪いぞ。今日はこのまま家に帰ったほうがいいな」


徹さんはハンドルを右に切ると、私の住む家の方向へと車の進路を変更した。


「でも何か食べないと。徹さんお腹すいてますよね?」

「平気だ」


信号待ちでブレーキを踏むと長い腕が伸びてきて私の頭をクシャクシャっとした。
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