月が綺麗ですね
ズキンと胸が痛んだ。

私には理解できる。好きになったら、そう簡単には嫌いになれない。振り切ろうとしてもそれは容易なことじゃない。

だから、好きじゃないとか、もう終わったとか、必死に否定している。そうしないと、自分の感情に押しつぶされてしまいそうだから。



「初めての男だったのよ」

えっ?


私は黙って彼女の顔を見つめた。


「女って不便よね。飯塚みたいな女は別としてもさぁ、やっぱり忘れられないのよ。あっ、飯塚はああ見えてヴィッチだから」

飯塚さんにも驚いたけれど、

初めての男...忘れられない...。


北林さんの言葉は私の胸をえぐった。



「あんな下らなくて最低な男でも、私は嫌いになれなかった...」

「...北林さん」

「たとえ愛人でもいいと思った。...まだ若かったしね」


「ふぅー」と北林さんは、またタバコの煙を吐き出す。
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