月が綺麗ですね
「彼に奥さんがいても、私だって愛されてるから全然平気って思った。私のほうがいい女だって気づけば、きっと離婚してくれると思ったし。
...でも、そんな夢を描いていたのは私だけだったけどね」

北林さんに対して私は何も言えないでいた。ここで言える言葉なんて...私には見つからない。

北林さんも私の返答を期待しているようには思えなかった。ただ、話を聞いてもらいたい。話して楽になりたい。そんな感じだった。

彼女はさらに言葉を続ける。


「私、後悔はしてないんだ。自分の中で気のすむまで、納得が行くまで彼を愛したから。だからもう関係を清算しようかな~って思ってる」


思いがけない言葉だったけれど、私はそれが嬉しかった。

人それぞれに愛の形はある。でも、北林さんの愛は絶対に辛く苦しいものだったはずだ。


社長との結婚が間近と言われて、突然現れた他の女性にその夢を奪われて。けれど彼女は社長を嫌いになれずに関係を続ける道を選んだ。


それは報われる愛ではなかったにもかかわらず。


思いながら私は肩をすくめた。私だって報われない愛に囚われているのだから。
別れよう、別れようと思っているくせに、未だに別れる決心がついていないのだから。
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