シンさんは愛妻家
部屋で弁当と、サラダを広げて座ると、

ドンドンとドアを叩く音と、

「すいませんっ!」と若い女の声が聞こえた。

慌てているような声だったので、急いで、ドアを開けると、

「す、すみません!こ、これっ、入れ忘れてしまいました!」

コンビニの制服を着たショートカットの女の子が
息を切らして部屋に入ってきてお箸を差し出した。

薄い茶色の髪、ほとんどノーメーク、猫のような少し目尻が上がった大きな瞳。
20代前半だろうな。
細長い印象の体つき。背は女の子にしては高いだろうか…

「すみませんでした。サラダ、食べられないですよね!?」

と細長い体を折って、頭の後ろを僕に見せている。

「そんなに慌てなくっていいよ。箸は自分のがあるし…」

と言うと、パッと顔を上げ、

「よかったあ。食べられなくて困ってるんじゃないかって慌てちゃいました」

息を吐いて、見せた笑顔がキュートだ。
僕が後、10歳若ければドキドキしただろう。

「…仕事を抜けてきたの?」

「ちょうど交代の人がきたんで、
…先生が後ろにいた看護師さんと話していたんで、
外来の看護師さんだったと思って…探して、先生のいるお部屋を教えてもらったんです」

とまだ、息が切れているみたいだ。


「院内は走っちゃだめだよ。ペットボトルのお茶を飲む?」

「そ、そんなには走ってません…」と言いながらゴホゴホと咳をする。

「しょうがないな。座ったら」

と僕が小さな冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を渡すと、

ゴクゴクとお茶を飲みながらソファーに座り、

「喉も渇いてたんです。ありがとうございます。」

とホーッとため息をついた。





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