拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 ずっと彼女のいる部屋を眺めていたいが、時間は止まることなく容赦なく流れ続けていく。

 夜が明けたら俺は、社会人として会社に行き仕事をする。

 仕方なく明日に備えて、渋々身体を休めることにした。

 彼女が部屋を飛び出した時。俺はマンションの内と外、随分と探しまわった。

 心身ともに疲労が蓄積されている......。

 俺は少しでも身体を軽くしようと思い、風呂に入り汚れを洗い流した。バスタブに浸かると、少しだけ緊張が解れて肩の力が僅かに抜けた。

 風呂から上がった俺は濡れた髪をフェイスタオルで無造作に拭き、そのままタオルを肩にかけてボクサーパンツ姿で部屋に戻った。

 こんな姿、彼女の前では見せたことがない。

 それを思うと。俺は改めて、今独りでいることを実感してしまう。

 夜が明ければ。明日会社で彼女に会えると思い、孤独な今夜から逃げるように俺はベッドに横になった。

 上質なスイートルームのベッドが、まるで石の棺のように硬く冷く感じる。

 それはきっと昨日まで。彼女の柔らかくて、温かい身体を抱きしめて眠っていたからだ......。

 いつの間にか、それが当たり前になって。彼女の身体は俺の身体に馴染んでいた。

 ーー しかし、俺は一度も。彼女を抱いたことがない。

 初めて唇以外の彼女の肌に触れた時。まるで凍えているかのように、彼女の小さな身体が震えていた。

 それでも彼女は、あの時。俺に先へ進めと言った。

 俺のためだと思った。

 その気持ちだけで、俺は満たされた。

 いや、満たされなければならないと思った。

 なぜなら、あの時。彼女の心に棲んでいたのは俺ではなく”優斗”だったから。

 最初から真実を打ち明けて。俺は”怜斗”として沙綾を愛せばよかった ーー。

 そうすれば、あの夜。俺と彼女は一つになれていたかもしれない......。

 ーー 怜斗として沙綾を抱きたい。
 
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