王子様にかけるチョコの魔法
王子様にかけるチョコの魔法




「ねぇ、チョコ食べる?」


彼は甘いものが苦手。いつも私に貰い物の甘い物を返答の有無を待たずに手に握らせてくる。



コーヒーは濃いブラック、甘じょっぱい料理も苦手でケーキなんて食べた所は見たことがない。なのに、カレーは甘口派の我儘な王子様。



「ありがとうございます。でも、いいんですか?バレンタインに貰ったものでは?」


「違うよ。皆んな俺が甘い物苦手なの知ってるから遠慮してくれてるんだよね。でも…それは…男の部下から貰ったんだ。甘いもの、好きでしょ?」


「は、はい」

「よかった。一つだけ甘くなさそうな物を選んで食べたから、あとはあげようと思った。どれも美味しそうだから、喜ぶかなって」


言葉も笑顔も雰囲気も甘いのに、甘いものが苦手になんて見えない。


そんな彼のために準備をしたビターチョコレート。足下のバックに忍ばせ、いつ渡そうかと迷って、迷って、もう8時間も渡せないでいる。



チョコ、苦手なんだよね。そんな事は言わないだろうけれど、苦手な人に堂々と渡すのは怖い。


「あ、あの…」

「ん?」


どうか、チョコが好きになる魔法にかかればいいのに。

お姫様に魔法をかけた魔法使いが存在するのであれば迷う事なく願う。


彼が、今日だけでいい。だから、好きになって…と。チョコと私を。


手を伸ばし指先で彼の目元でクルクルと動かすと、彼は指先を視線で追いかけ微笑む。

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