私、今日からお金持ち目指します?
海外からやって来た有名チェーン店が一軒、日本のメジャーチェーン店が一軒、新規の洋菓子屋だがパリで修行したイケメンパティシエがいる店が一軒。ここ五年の間に立て続けにオープンした。それもご近所に。

「でね、うちと違って今風? そんな商品ばかりなの、ねぇ、冬彦さん」

どうやら父と母は、二人でライバル店に行ったことがあるようだ。
娘を除け者にして。

「でも、『梟(Hukuro)』は、安心・安全・絶品! って」
「言っていた人も、新しいお店に流れちゃっているのよねぇ、冬彦さん」

どうやら、ライバル店で、元常連客たちと鉢合わせしたようだ。
とんだ恥さらしだ! それにしても……何て世知辛い世の中だろう!

「だったらこの先どうするの? 閉店しちゃうっていうこと?」

それは勘弁して欲しい。
この店に私を引きずり込んだのは、誰あろう、この二人だ。

姉二人が立て続けに嫁に行き、残ったのは末の私だけ。当時、高校一年だった私に、「店を継いでくれるのなら、行きたがっていた芸大への進学を許そう」とそそのかされ、結局、乗ってしまった。

浅はかだった。店の手伝いをしながら、夢だったイラストや漫画の仕事をすればいい、と軽く考えていたのだ。
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