君の思いに届くまで
琉の潤んだ熱い眼差しに嘘はつけない。

私はこくんと頷いた。

「もう一度呼んでくれないか?俺のこと”琉”って」

「え」

琉を目の前に「琉」って呼ぶほど今の私にとって辛いことはなかった。

さっきのは思わず口から飛びだしただけで、意識して呼んだんじゃない。

私は首を横に振ってうつむいた。

琉が微かにため息をつく。

そして、私の頬をそっと片手で包んだ。

「ヨウ」

私は視線を琉の顔に上げた。

「ヨウ?」

琉の目。

琉の口。

琉の前髪。

琉の首筋。

少しずつ視線をずらしながら、琉をたどっていく。

琉の肩にたどり着いた時、自分の中から今まで堪えていた思いが溢れる。

「・・・り・・・ゅう」

「ヨウ」

頬を包んでいた琉の手は私のうなじに流れる。

「琉」

もう一度呼ぶ。

その姿は紛れもなく琉で、「琉」と呼ぶたびにあの当時の私達へ戻って行くような錯覚に陥っていた。

「琉」

「ヨウ?」

「・・・琉」

その瞬間琉が私を強く抱きしめた。

「ごめん。もういいよ。もう呼ばなくていい」

「琉」

私はそう言いながら泣いていた。

決して悲しいわけじゃない。

今の琉は今の私を大事にしてくれている。

それに、今の私を好きだと言ってくれた。

私が過去の琉をあきらめさえすれば、何も問題はないはずなのに。

それができない自分が歯痒かった。





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