君の思いに届くまで
「ヨウが辛そうにしている顔を見てることが俺には堪えられない。俺の名前を呼ぶのが辛いなら言わなくていい」

泣きすぎてむせかえる。

しばらく、琉の胸を借りて泣いた。

こんなにも泣いたのは何年ぶりだろう。

琉の元から帰る列車の中で泣いて以来じゃないだろうか。

少しずつ車中に日の光が差し込んできた。

足下に当たる日差しが暖かい。

そんな暖かさを感じながら、私の心も涙も落ち着きを取り戻していく。

「ヨウの悲しみや葛藤を分かってあげられなくて悪かった。もう言わないよ。二度と言わない」

琉の体がそっと私から離れる。

そして、私の髪を優しく撫でてくれた。

「帰ろうか」

「はい」

車はゆっくりと発進した。

駐車場に駐車していた車も少しずつ出口へ続く波を作っている。

その波に乗りながら私達の車も動物園を後にした。

いつの間にか真っ赤な夕焼けが街を彩っている。

「こんなに真っ赤な夕焼けは久しぶりだな」

そう言う琉の横顔もオレンジ色に染まっていた。

「雨上がりの夕焼けだからでしょうか?」

「うん、そうだね。さっきの雨で空気はとても澄んでいるはずだから、夕日の色も鮮明になるのかもしれない」

さっきの豪雨も、豪雨の中の抱擁も嘘みたいに穏やかな今に現実感が全くなかった。

琉はこの今をどう感じているんだろう。





< 111 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop