君の思いに届くまで
「ヨウさん?」

彩が強い口調で私の名前を呼んだ。

「あ、ああ。うん」

「じゃ、いいんですね?私、今晩峰岸教授に自分の気持ちを伝えようと思ってます」

「伝えればいいじゃない。私には関係ないことだから」

彩は目を丸くして私の顔を見つめていた。

そして口の端を少しだけ上げて微妙な顔で笑った。

「よかった」

彩はそう言うと、また皆のいる場所へ走って戻っていった。

今晩峰岸教授に告白するんだ。

自分の気持ちを伝えられる彩の背中が羨ましくて眩しい。

どうこうなる前に、今の自分の気持ちをきちんと伝えられることさえできない私って一体なんだろう。

前に進まなきゃいけないってあれだけ健に言われたのに。

私は何を足踏みしてるの。

こんなにそばに琉がいるっていうのに。

一緒に暮らし始めただけで、何も前に進んでいない。

本当は、嫌だったのに言えなかった。

誰かに好きだと言われてる琉を想像するだけで苦しくなるほどに嫌な人間になっていく。

そんな自分になりたくなかった。

だから彩の前では大人ぶって余裕を見せて、それが絶対あなたなんかに負けないっていう意志表示だった。

私って大馬鹿だ。

学生相手に何強がってる?

長く息を吐いて、彩からもらった固く冷えた肉を口に入れた。

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