君の思いに届くまで
「ヨウさんって峰岸教授と付き合ってるんですか?」

彩が突然そんなことを尋ねた。

思わず飲んでいたビールを口から吹きそうになる。

「な・・・急になんなの?」

動揺を悟られまいと必死に平静を装う。

「否定しないんですね」

「するわよ。付き合ってなんかないわ。ただの教授秘書、それだけよ」

「先週だったかな、二人で仲よさそうに車に乗ってたの見たんですけど」

「先週?一応峰岸教授の秘書だし、たまには授業に使う教材なんかの買い出しに同行することだってあるわ」

そう言いながら胸がドキドキしていた。

最近は、時々一緒に車で帰ることもあったから。

それを見られていたのかもしれない。

「ふぅん。そうなんだ」

彩はそう言いながら前を向いた。

「じゃ、私本気で峰岸教授にいっちゃっていいですか?」

その目の先には琉がいた。

学生達と無邪気に笑いながら。

まさか、ここでこんな話してるなんて思いもしないだろう顔で。

後ろにきゅっと束ねた彩の髪の色は薄茶色で、琉の瞳の色と同じだと思った。

色も白くて、華奢な腕。

誰もが可憐で守りたくなるような姿をしている。

琉は、もし彩が言い寄ってきたらどうするんだろう。

例えその気がなくても優しい琉は彩をその気にさせちゃうなんてことはないだろうか。

そんなこと、琉が決めること。

今更私はどうしたいっていうの?

琉の記憶が戻るのを一緒に待ちながら、琉が今の私を好きだと言ってくれる声を聞きながら。

待った先には何があるんだろう。

その先には、苦しみしかないような気がしていた。

琉が私以外の誰かと恋をしたらそんな苦しみを思い出さず幸せになるかもしれない。

だって、私達はまだ付き合ってはいない。

私自身の気持ちが定まらない間は付き合えないもの。

『ヨウは一体どうしたいんだ?』

健に言われた言葉が蘇る。





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