君の思いに届くまで
ケーキを食べ終わった後、「お酒飲める?」と尋ねられて大丈夫と言うと、白ワインのボトルを一本頼んでくれた。

ワイングラスにほんのり黄みがかった透明の液体が注がれていく。

ワインか・・・。

ワインは好きだけど、ワインを飲むといつも以上に酔いが回って足に来るんだよね。

だけど、今日は琉がいるからなんとなく飲みたかった。

お酒の勢いで琉への自分の気持ちが止まらなくなりそうだったけど、どうしてか逆に止めたくないような気がしていた。

「ヨウはいつまでここにいるの?」

「一ヶ月の予定なので、3週間後には帰国します」

3週間後には日本に帰らなくちゃならないんだ。

そう思っただけで泣きそうになっている自分がいた。

「琉は、ヨークにはいつまで?」

「明日の午後にはロンドンに戻らなくちゃならない。仕事でね」

「そう、ですか」

ロンドンはここからは結構な距離だった。

いくら私が3週間ここにいたとしても、琉とこうやってゆっくり会えるのは今日が最後かもしれない。

ワイングラスを空けると、ふぅーと息を吐いた。

「俺がいなくなったら寂しいって顔してるけど」

琉はいたずらっぽく笑うと、私の頭に軽く触れた。

細くて長い指が私の髪をすっと撫でる。

胸がきゅーっと痛くなった。

「俺も寂しいよ。ヨウと離れるの」

グラスを傾けながら、目だけは私を捕らえていた。

そんな真面目な顔して言わないでほしい。本気にしてしまいそうになるじゃない。

そんな思わせぶりなこと言ってるけれど、琉にはフィアンセがいるんだから。

年下の私をからかってるだけだと必死に自分に言い聞かせた。

だけど、今は例えそれが冗談だったとしても構わない。

私も冗談だよって言いながら、琉のそばから片時も離れたくなかった。

2人の時間を過ごしていくうちにもうどうなってもいいって思うくらい、琉に飲み込まれていってる。

どうしてそんなに惹かれるんだろう。

薄茶色の切れ長の目と形のいい唇が私の体中の細胞にインプットされていた。

その声も姿も、話す言葉一つ一つが私の魂に揺さぶりをかける。







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