君の思いに届くまで
次第に薄暗くなっていく空に、一層ネガティブな気持ちが加速していった。

琉からもらった名刺を見つめながら、そばにあったベンチに腰を下ろした。

私って何てお馬鹿なんだろう。

一時の熱に浮かされたくだらない人間みたいに、こんなところで呆然と座ってる。

琉だって、本気で私と一緒にロンドン行こうなんて言うはずもないのに。

両手で顔を覆ってうつむいた。

一気に今日一日の疲れが体中にぶらさがる。もう動けないよ。

その時、女子学生の声が聞こえた。

「あの人です。峰岸教授」

峰岸教授・・・?

顔を覆っていた両手をゆっくりと外し、顔を上げた。

さっき琉の研究室がどこか尋ねた女子学生がにこやかに私を指刺しているのが見えた。

そして、その学生の後ろに。

琉。

ドクン。

胸の中心が飛び跳ねた。

会いたかった人。つい先日会ったばかりなのに、こんなにも懐かしくて恋しい琉の姿があった。

なのに、琉は表情1つ変えず、その女子学生に「ありがとう」と声をかけると私の方にゆっくりと近づいてきた。

優しい眼差しで「待ってたよ」って言ってくれるはず。

私は期待で胸を膨らませながら近づいてくる琉の目をじっと見つめた。

琉の口元が僅かに開いた。

「どうしてここへ?」

え?

その表情はとても固くて、緊張しているのか怒っているのか頬が少し強ばっている。

歓迎されていないということは、いくらお馬鹿な私でも一目瞭然だった。



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