君の思いに届くまで
6章
6章



琉からもらった名刺だけを頼りにロンドン市街を行く。

英会話には幾分慣れてきたものの、イギリスという国自体まだ初心者の私は地理的な事は全くわからなかったし、誰かに道を尋ねることも緊張してなかなかできなかった。

琉の勤務する大学にたどり着くのにロンドンに到着してから半日もかかってしまった。

外はすっかり夕暮れ時。

先の尖った時計台がそびえ立つカレッジの前に立ちつくした。

まだ琉はこの場所に残っているだろうか?

残っていなかったらどうしよう。

このまま路頭に迷うことになる。

だって、今日の宿すら取ってないんだもん。

我ながら無謀な状態で飛びだしてきたことに今更ながら後悔していた。

とりあえず、琉のいるであろう研究室に向かうことにする。

重厚な歴史を感じるカレッジの門をくぐり抜けた。

あまりに広い中庭に、なかなか建物にまでたどり着かない。

時々すれ違う大学生が、リュックを背負った化粧っ気もない私を見ながらくすくす笑っていた。

でも今の私にはそんなことはどうでもよかった。

一刻も早く琉に会いたい。

薄茶色の目で私をじっと見つめて「待ってたよ」と言ってもらいたかった。

胸の高ぶりがただ歩いているだけの私の動作をぎこちなくさせていた。

気が急くってこういうことなんだろうって初めて気付く。

校舎の前に立ったものの、どこに琉がいる研究室なのかもわからない。

思い切って前から歩いてきた女子学生に声をかけた。

「すみません。この名刺の教授はどちらにいますか?」

必死に英単語を並べて振るえる声で尋ねた。

女子学生は最初は眉間に皺をよせていたが、その名刺を見たとたんにっこりと微笑んだ。

「峰岸琉教授ね。その角を曲がった校舎の2階に研究室があるわ」

「あ、ありがとうございます」

私はその女子学生にペコリと頭を下げると、一目散にその校舎目がけて走った。

角を曲がった先の校舎はとてつもなく大きかった。

この校舎の2階って・・・?

一部屋一部屋探すだけでも何時間かかるんだろうって量の窓の数だった。

もう会えないのかもしれない。

会うなってことなのかも。

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