君の思いに届くまで
「あの・・・、来ちゃまずかった、ですよね。やっぱり」

私は小さく自分に言い聞かせるように呟くと、そんな琉の顔を見ていられずうつむいた。

あー、会いにこなければよかった。私って本当に勘違いお馬鹿女。

この場からすぐにでも逃げ出したいくらいに情けない気持ちでいっぱいになる。

フィアンセがいるこんな素敵な琉に私なんてとても不釣り合い。

所詮あの日の出来事はきっと夢だったんだ。ちょっとした琉の大人のお遊びに付き合わされただけ。

マミィの助言を聞いていればこんなみじめな思いしなくてよかったのに。

怒濤のように後悔の波が押し寄せる。

「君、ありがとう、もう行っていいよ」

うつむく私の向こうに琉の声が響く。

さっきの女子学生に声をかけているようだった。

「オッケー」と言った女子学生の足音が次第に遠ざかる。

少し肌寒い夕暮れが私と琉の影をゆっくりと暗闇に溶かしていった。

私は暗闇の力を借りてゆっくりと顔を上げた。

「ヨウ」

静かに確かめるように私の名前を呼ぶ。

私の手がそっと琉の手に掴まれた。

え?

暗くて琉の表情が見えないけれど、時々学内に点在している街灯の明かりがその瞳をかすかに揺らしていた。

「こっちへ」

私の手は琉に掴まれたまま学舎の中へ引っ張られていく。

戸惑いながらも、琉の手がとても熱く強く私の手を掴んでいることに気持ちが高ぶらずにはいられなかった。

あの日みたいに。








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