君の思いに届くまで
琉は、グラスに添えた自分の手に視線を落とすと、ゆっくりと話し始めた。


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5年前、父方の祖父が他界して葬儀に出席するために久しぶりに日本に帰国した。

久しぶりというか、俺がイギリスに来たのは丁度8歳の時だったから、日本にいた頃の記憶なんてほぼない状態。

初めて母国の地を踏むような気持ちで日本に降り立ったよ。

期待と少しの不安と一緒にね。

せっかく日本に来たついでにと、両親はご無沙汰していた親戚や友人と会うために2週間の滞在を予定していた。

俺はその間何もすることがなくてどうしようかと思っていたら、叔父が校長をしている高校で1週間だけ生徒に英語を教えてやってくれないかと頼まれた。

正直日本まで来て仕事かよって面倒臭い気持ちもあったけど、誰かに何かを教えるということは元々好きな性分だったしとにかく暇をもてあましていたからね、とりあえずその話を受けることにしたんだ。

放課後に高校1年生と2年生対象に英会話サークルの時間を設けてくれてね。

募集したらすぐに15名ほどの生徒が集まった。

どこのどいつかわからない講師の英会話サークルなんて、よくも15名も集まったもんだよ。

よほど暇な学生が来るんだろうな、なんて思って初日を迎えた。






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