君の思いに届くまで
その後琉は、書類の不備だけでなく庶務の山本さんにに連れ回されて施設の説明や他の教授への挨拶に忙しく夕方まで研究室に戻ってくることはなかった。

私は一人でなんとかダンボールの書籍や書類を棚に直し、仕分けの判断がつかないものはダンボールにいれて琉のデスクの横に置いた。

パンパンと手を払う。

クシュン!

部屋の中に埃が舞っているのかくしゃみが出た。

私はこう見えて結構繊細なのよね。ダストアレルギー。

琉のベッドの上でくしゃみが止まらなくなって笑われたっけ。

苦しくなるような抱擁の後に、二人で大笑いしたことをふと思い出す。

手もちのマスクを付けて、部屋に掃除機をかけた。

琉のデスクの上を新しいぞうきんで拭く。

琉が気に入ってた窓のさんや縁もきれいに拭いておいた。

「これでよし」

掃除や整理をすると、いつも不思議とざわついた心が落ち着いていく。

きっと掃除しながら自分の気持ちも一緒にきれいに片付いていくんだろうか。

大泣きした時よりも落ち着いたけれど、琉が私を忘れていることはどうこうしようもないことで、気持ちのざわつきは残ったままだった。

時計を見ると17時過ぎ。

メモに「峰岸教授 お先に失礼します。明日は8時半に出勤致しますのでまた何かあればご連絡下さい。 瑞波ヨウ」と書いて琉のデスクの上に置いた。

少し考えて、自分の名前の横に自分の携帯番号を書いた。

別にやましい気持ちで書いたわけじゃない。

ただ、琉が緊急で私に連絡したいことがあったらすぐできるように。

なんて、きっと初日から電話なんてかけないだろうけど。

かすかに期待している自分が情けなくて思わず笑ってしまう。

研究室の扉に鍵をかけると、更衣室へ向かった。

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