君の思いに届くまで
家の中はやはり暖かい。

自分が今更ながらとても無防備な格好で冷たい空気にさられていたことに気付く。

「朝食の前に、この冷え切ったヨウの体をなんとかしなくちゃな」

琉はいたずらっぽく笑うと私の体をぎゅっと抱きしめた。

大きくて熱い体が私の体温を少しずつ温めていく。

「ここも?」

と言いながら琉は私の耳たぶを軽く咬んだ。

感じたことのないような切ない気持ちに襲われる。

琉は笑いながら耳から首筋、肩、手の平と順番に唇を押し当てていった。

私はくすぐったいのと切ない気持ちと混じり合って、でも結局笑いながら琉を受け入れていた。

「もう暖まったよね」

琉はもう一度私の体をぎゅっと抱きしめると、腕まくりしながらキッチンへ向かった。

キッチンで私のために朝ご飯を作ってくれている音がする。

私は幸せな気持ちでその音を聞いていた。

「目玉焼きは半熟でいい?」

キッチンから琉の声がする。

「何でも大丈夫です」

こちらは至って真面目に答えたのに、琉はその返事を聞いて笑っているようだった。

なんだか。

そんなことですら気持ちの奥からじんわりと幸せという文字が浮かび上がる。

今、生涯で一番幸せな時間なのかもしれないと思ったら、この後の時間がとても恐く感じられた。

先の見えない不安。

霧と似ている。

私はダイニングテーブルの上を片づけると、イスを引いて座った。
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