君の思いに届くまで
9章
9章


琉の大学での仕事が始まった。

まだ来たばかりだから、毎日4コマ程度の英語の授業を持つのみ。

ゼミは来年からになりそうだ。

緩やかなスケジュールのせいで2人で研究室にいることが多かった。

当時の気持ちを封印しつつも、琉と2人で話したり笑い合ったりしていたらふと現実を忘れそうになる。

トントン

扉がノックされた。

「はい」

琉が難しそうな文献に目をやりながら返事をする。

「峰岸先生、今いいですかぁ?」

扉の向こうから女子学生らしき声がした。

私は慌ててその扉を開けに向かった。

そこには2人の女子学生がノートを胸に抱いて立っていた。

「失礼します!」

その2人は私を一瞥するとさっさと中へ入っていった。

いつもの2人だ。

琉の講義を取ってる学生らしかった。

毎日のようになんだかんだ理由をつけて部屋にやってきては琉と話して帰る。

まぁこれだけのイケメンだから、あらゆる講師陣の中でもひときわ目立った存在だった。

キャッキャ言いながら、時々琉の腕なんか押したりして。

私は彼女たちにとっては完全にお邪魔虫状態。

軽くため息をついて立ち上がった。

「すみません。教務で資料コピーしてきます」

「あ、ちょっと待って」

私の背後で琉が私を呼び止めた。

「俺も行く」

え?

琉も立ち上がると、女子学生に爽やかな笑顔を向けて言った。

「ごめん、君たち。俺も急ぎの用を思い出した。さっきの質問事項は受け付けたから返答はまた明日でもいいかな」

女子学生は明らかに不満そうな顔で琉を見上げてる。

「え~、せっかく来たのに。明日は絶対ですよ~」

と言って、名残惜しそうに部屋を出ていった。





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