君の思いに届くまで
扉が閉まる音が部屋に響く。

「急用って何ですか?」

思わずそばに立っている琉を見上げて尋ねた。

「いいんだ。毎日あいつらの相手するのも少し疲れちゃってね」

「疲れちゃったって。用事もないのに嘘ついて帰したんですか?」

「嘘じゃないさ。用事はこれから作ればいい」

これから作るって?!唖然と琉を見た。

琉は、そんな私をよそに口元を緩めたまま尋ねた。

「確か今日はもう俺が持ってる講義はないよね?」

引き出しから今日の予定表を出して確認する。

「ええ、ありません」

「ヨウは教務でのコピーが終わったら何かあるかい?」

「特に急ぎはありませんが」

窓から差し込む黄色い日差しがイギリスのそれととても似ていた。

「もしあいてたら俺に付き合ってくれない?」

胸がドクンと大きく震える。

まるでヨークで琉に誘われた時みたいな緊張が走る。

デジャブみたいに。

私はじっと琉の目を見つめた。

でも琉の目の色はあの時のような熱っぽさはない。

「ど、どこに付き合うんですか?」

「ちょっとね。ある女性にプレゼントを渡したいんだけど相談に乗ってもらえたらと思って」

ある女性にプレゼント?

一気に高まった気持ちがしぼんでいくのがわかった。

まさか元フィアンセとか?

日本に来て知り合った女性とか?

見えないその相手に嫉妬している自分がいた。





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