君の思いに届くまで
一旦家に戻り、最低限の荷物を持ってその日のうちに琉の家に向かった。

私、とんでもないことしてる?

こんなこと大学側にばれたら、琉も私も大学にはいられなくなる。

でも、そこまでの危険を冒しても今は琉のそばにいたい。

琉の住む場所は大学からほど近い高級住宅街の中にたたずむ赤煉瓦の品のいいマンションだった。

住居人数は少ないけれど、一件一件の広さはかなり広い。

「マンションは今まで住んだことがないから得意ではないんだけどね。大学が斡旋してくれた中ではここが一番落ち着いたから」

確かに落ち着いたたたずまい。

部屋も一部屋が広く、ゆったりとした間取りになっていた。

イギリスの琉の家にあったシックな雰囲気とはまったく異なる色調の家具が置かれている。

「この部屋の家具は峰岸教授が揃えたんですか?」

あまりにも違いすぎる雰囲気に圧倒され思わず尋ねた。

「ああ、俺だよ。何か気になる?」

「いえ、少し意外だったものですから」

「意外?」

「峰岸教授のイメージはもっとシックでアンティークな家具がお好みかなと思っていたので」

琉はバッグを床に置きジャケットを脱いだ。

「確かにシックな空間は嫌いじゃないが、この部屋にはふさわしくないだろう?」

そう言うと、微かに笑った。

そうか。

そうだよね。

琉が一瞬別人に感じてしまいそうで恐かったから。

その言葉を聞いて少し安心する。ちょっとのことで不安が膨らまないようにしなくちゃ。

テーブルの前の椅子に腰掛けるように促された。

「お腹空いただろう。簡単なものしかできないけど作るよ」

琉はそう言うとキッチンでパスタを茹で、作り置きしてあったトマトソースを絡めた。

ベビーリーフとサーモンのサラダを添えて私の前に置く。

相変わらず手際がよくてお料理上手だ。

「ヨウにはこれじゃ足りないかな?」

琉はいたずらっぽく笑った。

「いえ、大丈夫です。なんだか教授に作らせちゃってすみません」

二人でテーブルを囲んでパスタを食べた。

和やかな時間が流れる。

あの時の狂おしく求めていた時間とはまた違うけれど。

それは私達が少し年齢を重ねたからだろうか。

こういう時間がとても必要だと感じていた。



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