セルロイド・ラヴァ‘S
会社は毎朝、掃除と朝礼から始まる。朝礼は普段は店長が、不在の時は主任の肩書で羽鳥さんが代理を務める。もっと歳が上の営業さんもいるけれど、うちの社長は実力主義だ。特に不平を言う人もいない。

今日は火曜で全体の半数が連休シフトで休み。何となく静かで過ごしやすい。事務も、私より4つ上の笠原さんが休みだから今日は一人だった。

結婚していて小学生の女の子が二人いる彼女は、近くに実家があるからとフルタイムのママ社員で。PTAを引き受けたくないが為に土日営業のここで働いているらしい。ドライなところもあるけれど、さっぱりした性格で付き合い辛さは特に感じない。ちょうどいい距離感の人だと思う。

「これ領収証切っといて。あとこっちも」

ジキルとハイドかってくらい、お客さんへの態度と180度違う愛想のないこの人は、宮川さんって50歳手前ぐらいの営業さん。・・・まあ大概がこんなもの。だから常識的な対応で且つ、普通に笑顔で返してくれる羽鳥さんにはほっと出来たし好感も持った。それ以上でもそれ以下でもないと自分では思ってた。・・・のに。

11時前には、店頭待機の当番を残して全員がホワイトボードに予定を書き込み出かけて行った。

「物調、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

 黒いコートと鞄を手に颯爽と出て行く羽鳥さんの背中にも、いつも通りの声を掛けて。
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