イミテーションラブ
そこから逃れようと、顔を上げようとしたけど、強い力で身動きできない。
田崎は私がジタバタしてるのに気づいたのか、その腕を緩めてくれてやっと解放してくれた。
私の顔を覗き込み、また頰や唇にキスをする。
何か言いたげで、私が「…どうしたの?」と尋ねたら、
「やっとお前の口から気持ちが聞けた…」
と口元が緩んだ田崎はご機嫌な様子。
「…言ってなかったかな?」
「俺の前では聞けてないけど?」
「そうだっけ?」
自分が気にしていたように、田崎も私からの言葉に一喜一憂するんだとびっくりしてしまった。
元々モテる人ではあったし、そんな言葉は聞き慣れているだろうし、私も関係から始まったこともあって言いにくかったけど…
好きという言葉を、田崎から求めることばかり考えていた。
田崎は私の顔を見ながら、指を伸ばし私の鼻の頭をチョンっと弾いた。
「…何?」
「…なあ、広瀬さんはもういいのか?」
何でそこにこだわるのか、不思議に思いながら田崎に尋ねる。
「入社した頃、運命感じたって騒いでただろう…」
「…確かに」
バイトで出会って、入社したら再開なんて恋愛ドラマや漫画でよく見るパターンである。
実際、広瀬さんが素敵だったからその枠に当てはめちゃったのだけど…
「俺はお前に、自分を見て欲しかったから、広瀬さんと英里奈先輩が付き合ってるって分かってチャンスだと思ったけどな」
「そうなんだ…」
家まで送って、成り行きでそうなってしまったと思っていたから意外だった。
実際は私を想ってくれていたんだ…
それが分かって嬉しくなった。
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