イミテーションラブ
ドクンドクン。
動揺して平常心が保ててない。

いったい何を期待していたんだろう。
バイト先に来ていたお客の広瀬さんと、たまたま就職先で出会っただけなのに…
気持ちが何となく通じあってたように感じられてたのは錯覚で、変な期待して独り善がりで空振りしていた。
「…英里奈先輩をよろしくお願いします」
私はそう言うだけで精一杯だった。

「あ、城山!お前もこっちでお酌しろよ」
助け船のように田崎涼介からビール注ぎの指示が入って、私は二人から離れた席に座り直した。
「二人の邪魔しちゃダメじゃん」
コッソリ田崎涼介が耳打ちする。
「知らなかったし…」
「俺は知ってたけどな…お前って鈍いよな」
「そんなこと言ったって…」
「ショック?広瀬さんに好意を持っていたろ?」
「ゴホッ!」
思わず飲んでたチューハイを吹き出してしまった
「諦めて俺と付き合う?…とりあえず広瀬さんを吹っ切れるまで…」
片手を頬につけたまま、田崎涼介はじっとこちらの反応を楽しんでいる。
「からかってるの?」
「いや、城山をこっちに振り向かせる機会を伺ってるだけ」
ニッと笑って思わせぶりな態度。
「…もおっ軽すぎでしょっ!田崎って女の人にそんな事ばっかり言ってるよね!?」
「はは…どうだろうな」
見つめる目が何か言いたげで私を動揺させる。
「今日はこのまま俺と帰れ、な?」
「……」
なぜか、嫌とは言えなくて私は頭を縦に頷いた。




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