素直になれない、金曜日
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「ここだよね、桜庭さんの家」


その声にはっとすると、たしかにもう我が家の前で。

もう着いちゃったの、なんて少し残念な気持ちになる。



じゃあ、と別れを告げようとしたとき、ヴー……となにかのバイブ音が聞こえて。




「ごめん、なんかメールきた」




そう言って砂川くんがポケットからケータイを取り出して。




「あー、不審者捕まったって。先輩から」


「そうなんだ……!じゃあ、明日からはとりあえず安心だね」




今日は送ってくれてありがとう、と言おうとしたけれど、砂川くんが一足先に口を開いた。



「あのさ、提案なんだけど」

「……?」




砂川くんが発した“提案”の言葉。

その唐突さに、きょとんと首を傾げる。




「明日からも、一緒に帰ろ」

「へ……っ?」



告げられた言葉が予想外で、思わず声が上ずった。

一緒に帰ろ……って、聞き間違いじゃないよね? 都合のいい空耳なのかと、疑ってしまう。




「桜庭さん女の子だし、なにかと危ないでしょ」


「わ、私は大丈夫だよ……!」



「とか言いながら、俺と初めて会った日も危ないところじゃなかった?」




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