素直になれない、金曜日


「そういう砂川くんは?」


ばくばく騒がしく動く心臓を落ち着けながら、咄嗟に聞き返すと。



「実は俺もすっかり忘れてた」



なんとなく、砂川くんは考えてきているのかな、と思っていたから、ほんの少し残念な気持ちになってしまう。



「……わたしも、考えてきてないよ」

「そっか」



興味なさげな返事をしたかと思えば、砂川くんはすっと腕を伸ばした。



「じゃあ、これは?」



砂川くんが伸ばした手で、ひょいと引き抜いたのは私が手のひらの下に隠していた一枚のルーズリーフ。



「待って、それは……っ」



引き留めもむなしく、既に砂川くんはルーズリーフに目を通したあとだった。



「そんなことだろうと思った」

「っ!」

「やっぱりちゃんと考えてたんじゃん」




砂川くんに奪われたルーズリーフ
その中身は文化祭の出し物の私の案。

……どうして、こんなにあっさり見抜かれているのだろう。




「手、挙げないの?」



砂川くんはルーズリーフから私に視線を移して、首を傾げる。
私はふるふると首を横に振った。



「せっかく考えたのに勿体なくない? もしかして」



そこで一度、息を詰めるように止めた砂川くんは眉を寄せて。




「また考えてた? 自分なんかの意見なんて、とかそういうこと」



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