素直になれない、金曜日


そのまま何も言わない砂川くん。

黙ったままの彼を不思議に思って。




「……砂川くん?」



名前を呼ぶと、砂川くんははっと我に返ったかのように表情を変えた。



「……何でもない」



何でもないようには見えなかったけれど、私が詮索できるような立場でもなくて。

心にひっかかりをおぼえつつも、腰を上げた。



「じゃあ、私そろそろ帰るね」

「来てくれてありがとう、助かった」



砂川くんも立ち上がりつつ。



「深見先輩、どこまで迎えに来てくれるの?」

「えっと、この近くのコンビニまでって」

「じゃあそこまで送るよ」



そんな提案をする砂川くんに、慌てて首を横に振った。



「だっ、だめだよ!砂川くんは寝てなきゃ」

「や、でも」

「とにかく、だめ!」



断固として断り続けていると、砂川くんはふはっと笑い声を零す。



「ん。じゃあ、せめて玄関まで送らせて?」




あまりにも柔らかい笑みを浮かべながら言うから、どきん、と心臓が跳ねてどうしようもない気持ちになる。

やっとの思いで、頷くことしかできなかった。



荷物をまとめて、玄関で靴に履きかえて。



「じゃあ、お大事にしてね」

「うん。ありがとう、気をつけて帰って」




ばいばい、と小さく手を振って、砂川くんの家を後にした。


もっと一緒にいたかったな……なんて、私の思考回路はどこまでも砂川くんという熱に浮かされていて。


私の方が、砂川くんの風邪よりもよっぽど重症かもしれない。




もっと、砂川くんに近づきたい。

砂川くんの心に触れたい。



前よりも、少しは砂川くんに近づけているのかな。



そうだといいな、と思いながら

足早に恭ちゃんが待つコンビニへ向かった。






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