素直になれない、金曜日
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クラスでの劇の練習や大道具などの最終準備が終わって、駆けつけたのは図書室。


もちろん、図書委員の出し物、絵本カフェの最終セッティングをするためだ。



図書室の扉を開くと、そこには影がひとつだけ。

すぐに誰のものかわかった。




「砂川くん」



その背中に呼びかけると、彼はくるりとこちらを振り向く。



「桜庭さん……?」




私の姿を視界に入れるなり、驚いたようにわずかに目を見開いた。


呼ばれた名前は砂川くんのいつも通りの優しい声で、ほっとした。



それから、由良ちゃんにアレンジしてもらった髪の毛とか、塗ってもらったリップとか。


砂川くんの反応が気になって、そわそわしていたけれど、彼は何も言わずにすっと視線を逸らしてしまった。



少し残念に思いながらも、めげずに砂川くんに話しかけることにする。

だって、今はふたりきりだし、話しかけるならチャンスは今しかない。




「みんな、来ないね……」



クラスの準備が終わらないのか、まだ誰も図書室に入ってこない。



「だな」



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