素直になれない、金曜日
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週明けの月曜日。

移動教室の途中で砂川くんを見つけた。




廊下の少し向こう、離れていたけれど絶対に砂川くんだってすぐにわかった。





「言わなきゃ……」





砂川くんがくれたクッキーは、勿体無くてなかなか食べられなくて。


でも湿気てしまわないうちに食べなきゃ、その方が勿体無いと思って土曜日と日曜日に、半分ずつ、大切に食べたんだ。


見た目がかわいいだけじゃなくて、味も本当に美味しかった。




“美味しかったよ、ありがとう”



ただそれだけ、伝えたかった。

視線の先の砂川くんは勇気を出せば届く距離。




よし、と気合いを入れて一歩ずつ近づいていく。近づく一歩ごとに心臓の音が大きくなる。


あと一歩踏み出せば砂川くんに話しかけられる。



そのとき、




「なあ、駿!」




砂川くんの友達らしき男の子が砂川くんを呼んだ。

砂川くんが、そちらを振り返る。





────私は、何も無かったようにその横を通り過ぎた。




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