私の愛しいポリアンナ



秋は諦めが悪かった。
ダジャレではなく。
一度の失敗でもへこたれない精神力を持っていたので、みのりの見合いはそれからも3度ほど決行した。
しかし、いちいちカフェやレストランに知り合いである2人を連れ出すのも手間だということには2度目で気づいた。
混んでいた場合、カフェにはスムーズに座れない。
レストランの場合は予約をすればいいが、話すのが目的なのでそこまで高いものを注文しないのに予約するのも気がひける。
よって、秋が出した結論は「自宅で」みのりと男を引き合わせるというものだった。

こうすれば料理や酒も仕事の貰い物を出しておけばいいし、余計な金がかからない。
秋は倹約家だった。
その性格は実家がかつて借金に苦しめられていたことに由来するが、詳しい話は割愛する。
歌舞伎一家は華やかではあるが、格式ゆえの派手な催しの出費の高さや、親族の事業失敗の負担で家計は厳しいのだ。
秋は赤ワインを開けながら幼少期を過ごした実家のことを思い出す。
目の前のモノトーンのモダンな机では、みのりと秋の部下が美味しそうにチーズを頬張っている。
もう一つの皿にはソーセージがてんこ盛りだ。

秋は仲人の役に徹していたので、みのりたちの会話をじっと聞いていた。
「ポーランドのソーセージは美味しいですよ」の一言から、シャウエッセンの美味しい焼き方の話にまで広がっていた。
水を少し入れてパリパリが最高ですよね、とみのりが熱く語っている。

秋は2人の会話には混ざらない代わりに、赤ワインをかなり飲んだ。
部下がこの見合いのために用意してくれたフランスのボルドーワイン。
定番はやはり美味しい。
会話している2人の雰囲気は良好だ。
盛り上がる会話を肴に、「俺の仲人役もここで終わるか」という満足感に浸っていた秋は、いい気分で赤ワインを次々飲んだ。
ガブガブ飲む秋に気づいたのか、みのりが「私にもください」なんて言ってくる。
そのまま場の空気は「ワインを味わう会」になり、勝手に食器棚から持ってこられたワイングラスで乾杯をした。



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