愛しのニャンコ
なにやら只ならぬ空気が流れた。

『北川さんおりいってお話しが有るのですが……』

祖父が話し始めた。
『智紀とは何も無かった事にして貰えませんでしょうか?』
いきなりの事に戸惑いを隠せなかった。
『それは別れろと言っているんですか?』

『はい!年も離れてますし、しかも同性てもなると智紀の将来に関わります。』
横に居る加奈子様が重い口を開けた。

『智紀さんは貴方の事をとても慕っていますが、貴方に智紀の幸せを奪う権利は御座いませんよね。』

話は分かるが急な展開に何も言えなかった。

智紀の為か…。

そんな事考えてもみなかった。

『率直に言おう。智紀と別れてやって下さい。お願いします。』

どうしたらいいのか分からず、俺は二人に告げた。

『智紀は何も知らないですよね。』

『はい』

『退院するまで時間を頂けますか?』

今はコレしか伝えられなかった。

智紀の事は好きだけど、智紀が知らない事が俺には耐えられ無かった。

『分かりました。退院して一度屋敷に起こし下さい。その時に又お話しさせて頂きます。』

二人の要件は端から決めていた事なんだと察知した。

やるせない気持ちが湧いて来た。

廊下の向こうで智紀の笑い声が聞こえた。

黒田ととても仲が良いのかと思うような明るい笑顔で病室に入って来た。

『伯母様ジュース買って来ました。』

加奈子は優しい笑みを浮かべジュースを受け取った。

『はいお祖父様!』
お祖父様も智紀の頭に軽く手を伸ばし『ありがとう。』ジュースを受け取った。

『はい晴香さん!!』
何も知らない智紀の笑顔が俺は愛しく思えた。

こんな暖かい家族に囲まれ智紀は幸せなんだと今気付かされた。

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