包み愛~あなたの胸で眠らせて~
普通に受け答えはしているけど、違和感があった。意識して避けていたならば、納得できる。

母親に拒絶されたことが今になってもトラウマとなっている。幼い頃に傷ついたことはずっと心に根強く残る。広海くんは何度も思い出すお母さんの顔に何度も苦しんできたのだろう。

最終的に一人になってしまった彼は寂しいこともあったに違いない。

広海くんの辛さや寂しさを思うとやり切れない気持ちになるけど、『大変だったね』と簡単に慰められない。どう伝えていいか迷う。

また俯いた広海くんの背中にそっと手を置いた。

苦しむ広海くんに何もしてあげられなかったことが悔やまれる。いなくなってしまった広海くんと連絡が取れるようにと必死になって手段を考えるべきだった。


「広海くん……」


名前を呼ばれた広海くんは肩を揺らしてから、ゆっくりと私を見た。弱々しい笑みを浮かべている。


「無理して笑わなくていいんだよ」

「母さんとは違うと頭で分かっていても、ダメなんだ。心が拒否してしまう」


しっかりと私を見ているのに、苦しみを吐き出す広海くんが泣きそうに見える。
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