包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「なんか紗世ちゃんらしくないね」

「なにが?」

「いつもなら躊躇うことなく、積極的に動いていたよね? なのに何でたかがチョコをあげるのに思いとどまってるの?」

「うん、思うことがいろいろあってね」


湊人は臆病な私を知らない。怖いもの知らずの人生を送っていると思っている。

怖いもの知らず……そんな時期もあった。遠い昔のことだけど。

私は家での自分と外での自分を使い分けている。湊人は家での私しか知らない。どっちが本当の自分かと聞かれたら、家での自分と答えるけど、ここ最近の私は混同している。


「何を思っているのかは知らないけど、そんなチョコに悩むことはないんじゃない?」

「チョコで悩んでいるんじゃないんだけど」

「広海くん? 別にチョコをあげるくらいたいしたことじゃないだろ?」

「うん、そうだよね。確かにたいしたことじゃないかも。あげてこようかな」


結局1時間後、湊人に背中を押される形で広海くんを訪ねた。

チョコを入れた紙袋を握りしめて、インターホンを押す。

私の姿をモニターで確認したであろう広海くんは「お待ちください」と他人行儀な返事で開けてくれた。
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