お前からは、いらないから
「富田、いたのか」
相沢先輩が姿を現した。
この人は足がすごく長いから、いつも大股で歩いてるように見える。

「はい、例の件ですが、明日300ケース納品可能で、残りは来週だそうです」
「お前、それいうために残ってたのか?」
がーん!先輩、私に頼み事してたの忘れてたか…
「違います。他の仕事もあったんで」
嘘だけど。
「なら、良かった」
相沢先輩が華奢な眼鏡を外した。
ドライアイなのか、長い睫毛の目をパチパチさせてる。眼鏡のない顔を見れるなんて…嬉しすぎ。
それにしても、こんなチャンス逃す手はない!
「先輩、今日バレンタインじゃないですか。実は私、先輩にチョコ持ってきたんです」
「えええ?マジ?富田が?ほんとに?」
相沢先輩が少年のような笑顔を見せる。

「あ、一言断っておくが」

…え、なになに?
こほんと咳払いをしたあと、照れ臭そうに言った。

「俺、お前から義理チョコもらいたくねえから」


END
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