コーヒーの薫りで
営業、浅野拓也
営業で来ていた病院の帰りにコーヒーショップに向かう。

彼女はいるだろうか。


浅野拓也。医療機器メーカーで、営業をしている。

前回、新しい手術機器の営業に来ていた。
緊張していた俺は、アポの時間までに落ち着こうと思い、コーヒーショップへたちよった。

そこで見つけた懐かしい顔。
俺の顔を見た瞬間、はっとした表情をしたから、本人に間違いないだろう。

大学進学を機に家を出て、ほとんど地元には帰っていない。
同窓会の案内も来たが、都合がつかず出席できなかった。
彼女はどうしているだろうか。時々、ふと思い出す。

中学の卒業式の日、
連絡先を交換できてうれしかった。
彼女のことが気になっていたから。

でも、彼女から連絡は来なかった。
俺からも連絡はしていない。しようかともおもったが、勇気が出ず日にちばかりが過ぎていきタイミングを失ってしまった。

高校には入れば、友人関係も変わる。
進学校だけあって、回りはみんな優秀で、俺はついていくのに必死だった。
高校生活にも慣れた頃、'彼女'ができた。
もう、今さら彼女に連絡するのも躊躇われた……

その'彼女'とは2ヶ月程で別れた。
それから、何人か付き合ったし、年相応の経験もあった。

でも。『いつか彼女から連絡が来るかもしれない。』
その思いがどこかにあって、俺は、未だにアドレスは変えれていない。

その彼女をここで見つけた。
彼女は俺の記憶にあるより、ずっときれいになっていた。
でも、屈託なく笑う笑顔は変わってなくて……
緊張していた俺を解してくれた。

今日は前回営業した機器の実際に使用してみたいということで、サンプル品を持ってきた。
使った感想としては『良い』ということで、今後導入される予定だ。
ホッとした俺は、コーヒーショップへ向かう。

今日、彼女に会えたら話をしよう。


「いらっしゃいませ。」
彼女がいう。
「美里。久しぶり。」
驚いた顔をしたあと、はにかんだよう笑った。

あぁ、彼女の笑顔だ。
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